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事業承継において自社株式を後継者に引き継ごうとした場合、相続税や贈与税が発生します。事業が好調であればあるほど税額も大きくなるため、この問題は多くの経営者を悩ませてきました。

このような事業承継における税金の問題を解決し得る制度が「事業承継税制」です。2009年にはじまったこの制度は、事業承継の際に発生する相続税・贈与税の軽減を目的としており、とりわけ中小企業の事業承継を後押しする内容になっています。

この記事では、事業承継税制の内容やメリット・デメリット、注意点について詳しく解説します。

事業承継税制とは

事業承継税制とは、上場していない会社の株式を後継者に引き継ぐ場合において、ある一定の条件を満たすことで、その株式にかかる贈与税や相続税の納付を先延ばしにできる制度です。

贈与税と相続税の支払い猶予は、事業の継続や株式の保有継続といった要件を満たし続けることで継続できます。その後、さらなる後継者への贈与といった要件を満たすせば、先延ばしにしていた税金の支払いは免除されます。

事業承継税制には、従来の「一般措置」と、適用期間が定められている「特例措置」があります。特例措置は「特例承継計画」を提出することで利用でき、一般措置に比べて対象株式や猶予割合が拡充されています。

事業承継税制のメリット

事業承継税制の最たるメリットは、相続税や贈与税が免除されることでしょう。たとえば、2代目に承継する際に発生した相続税・贈与税は、事業承継税制を活用し、2代目の期間しっかりと猶予条件を満たし続けることで、3代目に承継する際に免除されます。

本来であれば承継の度に発生する税金がかからなくなるので、その分の資金を経営に回すことができます。税金が理由でなかなか事業承継に踏み切れないという問題も解決できるでしょう。

贈与税や相続税が免除されるケースとは?

先に述べた通り、事業承継税制では税金の支払いを免除してもらえるケースがあります。おもな免除事由は「後継者が死亡した場合」「後継者(2代目)から次の後継者(3代目)へ株式などを贈与し、次の後継者(3代目)が事業承継税制の適用を受けた場合」「後継者(2代目)に相続が発生した場合」の3つです。

贈与税の猶予期間に後継者が死亡してしまった場合は、贈与税は免除される一方、相続税の納税義務は発生してしまう可能性があります。その場合は、所定の手続きを行うことで相続税の猶予に切り替えることが可能です。

事業承継税制のデメリット

事業承継税制を利用するためには、書類作成や申請の手続きが必要です。作成して提出しなければならない資料が多いため、煩雑に感じてしまう方も少なくないでしょう。

例えば、特例措置を利用したい場合、まずは特例承認計画を策定して提出する必要があります。これにともない、経営計画をより明確化させる作業や、それを資料化する作業が発生するでしょう。

さらに、相続税・贈与税の納税を猶予してもらうための認定申請も必要です。この申請では数多くの書類を用意しなくてはならないうえ、税務申告がともなうため、手続きがきわめて煩雑です。税理士への相談も必要になるかもしれません。

また、認定を受けたあとも、一定の期間ごとに都道府県や税務署に報告書や届出書を提出する必要があります。

事業承継税制の制度を活用するには多くの手続きが必要であること、煩雑に感じる方も少なくないことを理解しておく必要があるでしょう。

事業承継税制を活用するための条件

事業承継税制を活用するためには、企業がいくつかの条件を満たしている必要があります。事業承継税制の利用条件は以下の通りです。

<先代経営者が満たすべき条件>
・企業の代表者であったこと
・相続や贈与の直前に親族で総議決権数の過半数を保有しており、そのなかで筆頭株主であったこと
・(贈与の場合)贈与の際に代表者を退任していること

<後継者が満たすべき条件>
・相続や贈与の直前に後継者も含めた同族関係者で総議決権数の過半数を保有していること
・後継者が1人の場合、同族関係者のなかでもっとも多くの議決権数を保有すること。後継者が2人または3人の場合、各後継者が総議決権数の10%以上を保有し、後継者以外の同族関係者それぞれが有する議決権数を下回らないこと
・(贈与の場合)贈与の際に企業の代表者であること
・(贈与の場合)贈与の際に20歳以上であること
・(贈与の場合)贈与の日まで3年以上引き続き役員であること
・(相続の場合)相続の直前に役員であり、相続開始から5か月後に代表者であること

<企業が満たすべき条件>
・中小企業であること
・従業員が1人以上いること
・上場していないこと
・風俗営業会社ではないこと
・資産管理会社に該当しないこと

事業承継税制の注意点

もっとも肝に銘じておかなければならないのは、「税金の猶予や免除の要件を満たせる見通しが立たない状況で事業承継税制の活用に踏み切らない」ということです。

事業承継税制によって猶予された税金には「利子税」が追加されます。そのため、免除が望めずいつか納税するのであれば、事業承継税制を利用することでかえって大きな金額を支払わなければならなくなるのです。

制度のメリットを高めるためには、免除までの道のりや免除を妨げる要素についてあらかじめ認識しておきましょう。

制度適用後も必要な手続きや満たすべき条件がある

先述のとおり、事業承継税制は適用を受けて終了ではありません。制度適用後も次のような手続きが必要です。

<適用から5年間>
・年に1回、都道府県庁へ「年次報告書」を提出する
・年に1回、税務署へ「継続届出書」を提出する

<適用から6年目以降>
・3年に1回、税務署へ「継続届出書」を提出する

また、以下の条件を満たし続ける必要もあります。

<適用から5年間>
・後継者が会社の代表者で筆頭株主
・後継者が猶予対象株式を継続して保有している
・雇用の8割以上を5年間平均で維持する(特例措置では緩和。下回った場合も都道府県庁への報告書提出で猶予を継続可能)

<適用から6年目以降>
・後継者が猶予対象株式を継続して保有している

事業承継税制は適用を受けるところがゴールではなく、その後も長期的に向き合っていく必要があるのです。

制度の適用が取り消される場合もある

納税の猶予期間中に制度の適用が取り消されると、猶予された税額に加えて利子も払わなければなりません。20項目以上ある取消自由から代表的なものを以下に抜粋します。

・後継者が代表者を退任した場合(精神障害、身体障害、要介護のようなやむを得ない理由がある場合を除く)
・後継者も含めた同族関係者の議決権数が50%以下になった場合
・後継者が筆頭株主でなくなった場合
・猶予対象株式を譲渡した場合
・必要書類が提出されなかった場合
・企業が解散や組織変更を行った場合
・総収入が0円になった場合
・資本金や準備金が減少した場合

より詳しい内容は、中小企業庁や国税庁のホームページをご覧ください。

事業承継税制は活用前にメリットとデメリットをよく検討

贈与税・相続税を免除できる事業承継税制は、事業承継時の税金について悩んでいる中小企業に大きなメリットをもたらします。一方で、活用するにあたって注意すべき点の多い制度ともいえるでしょう。煩雑な書類準備や定期的な報告書の作成が必要であり、取消事由とも長期的に睨み合っていかなければなりません。思わぬタイミングで取消事由に抵触してしまった結果、突然莫大な金額の税金を支払わなければならなくなる可能性もあるのです。

事業承継税制は魅力的な制度ではありますが、盲目的に飛びつくのではなく、リスクも認識したうえで活用するかどうかを判断しましょう。自社だけでは準備や管理が難しいという場合は、事業承継税制に詳しい税理士の力を借りるのがおすすめです。

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